待合室に流すBGMを、無料のフリー音源サイトで探したことがあります。結論から言うと、ほとんど使えませんでした。曲は悪くないのに、待合室で流すと落ち着かないんです。理由を突き止めるために、実際に自分で音源を作って測ってみました。その過程で分かった「向いている音・向いていない音」をまとめます。
結論:見るべきは4つだけ
| 基準 | 向いている | 向いていない |
|---|---|---|
| 曲ごとの音量 | 全曲そろっている | 曲が変わると音量が変わる |
| 高い音 | 耳に刺さらない | シンバル・ハイハットが目立つ |
| モノラル再生 | 音が痩せない | スカスカになる・楽器が消える |
| ループ | 何周しても気にならない | 印象的なフレーズで飽きる |
ジャンルや曲調の話は、実はそこまで重要ではありません。上の4つのほうが、現場での使いやすさを決めます。1つずつ説明します。
1. 曲ごとの音量がそろっているか
一番地味で、一番ストレスになるのがこれです。
フリー音源をいくつかダウンロードして並べて流すと、曲が変わるたびに音量が変わります。さっきまでちょうどよかったのに、次の曲でうるさい。ボリュームを下げると、その次の曲が聞こえない。
営業中に何度もボリュームを触ることになります。受付で作業しながらこれをやるのは、思っている以上に煩わしいです。
なぜ揃っていないのか
制作者が違えば、仕上げの音量も違うからです。同じサイトの曲でも、投稿者ごとにバラバラです。1曲単位で聴く前提で作られているので、当然といえば当然です。
どう見分けるか
配布ページに「LUFS」という単位で音量が書かれていれば、揃えて作られている可能性が高いです。書かれていない場合は、実際に数曲ダウンロードして続けて再生してみるしかありません。
※ LUFS は、人間の耳が感じる音の大きさに近い形で測った単位です。数字が同じなら、体感の音量もほぼ同じになります。
2. 高い音が耳に刺さらないか
待合室は、体調の優れない方がいる場所です。ここが普通の店舗と決定的に違います。
頭痛があるとき、熱があるとき、高い音は健康なときよりずっと不快に感じます。シンバルの「シャーン」やハイハットの「チッチッ」が目立つ曲は、待合室には向きません。
もう一つ、突発的なアタックも避けたいところです。急に大きな音が鳴ると、うとうとしていた方が驚きます。ドラムが強く入る曲、音量差の激しい曲は外したほうが無難です。
ただし「暗ければいい」わけではない
刺激を避けようとして高い音を削りすぎると、今度はこもって聴こえます。実際に僕がやってしまった失敗で、「刺激のない音」を追求した結果、モヤモヤした音になりました。
音楽の高い成分は、その多くが打楽器から出ています。打楽器を完全に排除すると、明るさそのものが消えます。「打楽器をなくす」のではなく「打楽器を小さくする」のが正解でした。
3. モノラルで再生したときに痩せないか
ここが一番見落とされていると思います。そして、フリー音源で一番つまずくところです。
店舗の天井スピーカーは、モノラル(1系統)で鳴っていることがよくあります。スピーカーが2つ以上あっても、同じ音が出ているだけ、というケースです。
ステレオ感を強く出した音源をモノラルで再生すると、左右の音が打ち消し合って、音がスカスカになったり、特定の楽器が消えたりします。パソコンやイヤホンで試聴したときは良かったのに、店で鳴らすと物足りない。原因はこれです。
買う前に確かめる方法
試聴音源をダウンロードして、実際に店舗のスピーカーで鳴らしてみてください。これが確実です。
それができない場合は、パソコンやスマホの設定で「モノラルオーディオ」をオンにして聴き比べる方法があります。オンにした瞬間に音が薄くなる音源は、店舗では期待した音になりません。
4. ループに耐えるか
営業時間中、BGMは何周もします。9時から18時まで開けていて、音源が30分しかなければ、18周します。
ここで効いてくるのが、曲の「印象の強さ」です。いいメロディほど記憶に残り、記憶に残るほど「またこれか」と感じます。BGMに限っては、印象の薄さが長所になります。
スタッフの立場でも同じです。毎日聴くのは、お客さんではなく自分たちです。
必要な収録時間の目安
| 収録時間 | 9時間営業での周回数 | 体感 |
|---|---|---|
| 15分 | 36周 | スタッフがつらい |
| 30分 | 18周 | 午前中で気づく |
| 60分 | 9周 | だいぶ楽になる |
| 80分以上 | 7周以下 | ほとんど気にならない |
お客さんの滞在時間は短いので、お客さん側の体感はそこまで問題になりません。ループの負担を受けるのはスタッフです。そこを基準に選ぶといいと思います。
テンポと明るさの目安
細かい話ですが、参考までに。
- テンポは60〜80BPM程度。心拍より少し遅いくらいです。速いと急かされている感じが出ます。
- 歌は入れない。お呼び出しや服薬指導の声とかぶります。歌詞があると、内容に意識が向いてしまうのも避けたいところです。
- 明るすぎず、暗すぎず。しっとりした短調の曲は、待合室では重く感じることがあります。かといって明るいポップスは場違いです。
楽器としては、ピアノ、アコースティックギター、ローズ、ビブラフォンあたりが扱いやすいです。金管楽器や歪んだギターは、まず合いません。
実際に測ってみた話
感覚だけで判断するのが不安だったので、自分で待合室用の音源を作って、測定しながら調整しました。そのとき分かったことをいくつか。
「静かに作る」だけでは足りなかった
最初、静かで刺激のない曲を作ったつもりでした。ところが測ってみると、曲の中での音量差が大きく、静かな部分と大きい部分で20dB近く開いていました。これでは、静かな部分に合わせて音量を上げると、大きい部分でうるさくなります。
最終的には、全曲を同じ音量(-16 LUFS)に揃えたうえで、曲の中の音量差も圧縮しました。一度決めたボリュームのまま、触らずに流し続けられる状態が目標です。
モノラルは、作る側でも見落としやすい
ステレオで聴くと気持ちよかった音源が、モノラルにすると明らかに痩せました。測ってみると、左右の音が打ち消し合っている箇所がはっきり出ていました。
ここは処理で直せる部分です。ステレオの広がりを少し狭めるだけで、モノラルでも痩せなくなりました。逆に言えば、この処理をしていない音源は、店舗で鳴らすと本来の音になりません。
こもりは、後から直せない
先ほど触れた「こもる」問題ですが、これはあとからイコライザーで持ち上げても直りませんでした。元の音に高い成分が入っていなければ、上げてもノイズが増えるだけです。
作る段階で決まってしまう、という意味では、選ぶ側も同じです。こもった音源を買ってしまうと、手元では直せません。試聴で確認するしかありません。
買う前・落とす前のチェックリスト
- 試聴を店舗のスピーカーで鳴らす(イヤホンで判断しない)
- 2曲以上を続けて再生して、音量が変わらないか確認する
- モノラル環境で、音が痩せないか確認する
- 受付での会話に、音がかぶらないか確認する
- 収録時間から、1日に何周するか計算する
特に1番です。パソコンのスピーカーと店舗の天井スピーカーでは、鳴り方がまったく違います。
この4点を潰した音源を作りました
ここに書いたことを全部反映して、待合室専用のBGMを作りました。全曲を -16 LUFS に統一し、モノラル再生でも痩せないよう処理しています。歌なし、30曲・85分収録です。
無料の2曲を配布しているので、まずは店舗のスピーカーで鳴らして確かめてください。
関連:権利の話はこちらにまとめました
店舗で音楽を流すときのJASRACの手続きについては、別記事で整理しています。医療施設は使用料が免除されるなど、意外と知られていない点があります。
まとめ
- 選ぶ基準は音量・高域・モノラル・ループ耐性の4つ
- 曲ごとの音量差は、営業中ずっとストレスになる
- 高い音は避けたいが、削りすぎるとこもる
- 天井スピーカーはモノラルのことが多い。試聴は必ず店舗で
- ループの負担を受けるのはお客さんではなくスタッフ
フリー音源が待合室に合わないのは、質が低いからではありません。「待合室で流すこと」を想定して作られていないだけです。用途が違うだけなので、選ぶ側が基準を持っておけば、失敗は減らせると思います。
※ 本記事は、筆者が実際に音源を制作・測定した経験に基づく内容です。数値は筆者の制作環境での実測値であり、すべての音源に当てはまるものではありません。音の感じ方には個人差があります。
著作権の手続きは調剤薬局で音楽を流すときの著作権、コストの比較は店舗BGMのコストを見直すに書いています。

