宅録は「起動の速さ」が命だと思う理由

宅録は「起動の速さ」が命だと思う理由|からすの音楽スタジオ コラム・雑記

宅録の環境って、結局のところ「いかに早く始められるか」が一番の鍵だと思っています。どんなに録音が好きでも、始めるまでの準備に10分かかる状態を何回か繰り返していると、だんだん腰が重くなってくる。自分は録り始めるまでの時間を減らすことを、機材選びや環境づくりと同じくらい重視するようになりました。

準備に10分かかると、何が起きるか

10分という数字だけ見ると、大した時間ではないように思えます。問題は、それが毎回かかることです。週に3回録るなら月に2時間、しかもその2時間は演奏でも音作りでもなく、ケーブルを挿してプロジェクトを作る作業に消えていきます。

もっと厄介なのは、消えるのが時間だけではないところです。「録ろう」と思った瞬間がいちばんやる気の高い状態で、準備はそのやる気を削りながら進みます。準備が終わる頃には、最初にあった「これを録りたい」という熱が少し冷めている。思いついた瞬間と、実際に音を出せる瞬間が離れているほど、宅録は続かなくなるというのが実感です。

逆に言えば、起動時間さえ潰しておけば、5分しか空いていない日でも「とりあえず録っておくか」ができます。1回あたりの録音時間より、録る回数のほうが効いてくるので、ここは投資する価値があります。

起動時間は3か所で詰まっている

「思い立ってから音が出るまで」を分解すると、詰まる場所は3つに分かれます。配線・プロジェクト・音色です。どれか1つだけを速くしても、残りがボトルネックになるので効果は薄い。3つ全部を潰して初めて、起動時間がほぼゼロになります。

思い立ってから音が出るまでに詰まる3か所(配線・プロジェクト・音色)と、それぞれの対策
詰まる場所は3つ。どれか1つを速くしても効果は薄い。

1. 配線:機材を繋ぎっぱなしにする

一番効果が大きかったのがこれです。使うたびにケーブルを繋いで、使い終わったらしまって、次に録る時にまた繋ぎ直す——このサイクルをやっている限り、毎回の準備コストがゼロになりません。多少机の上がケーブルで塞がったままになっても、ギター・オーディオインターフェース・PCまでの配線は常時繋ぎっぱなしにしておくことで、「よし録ろう」と思った瞬間にすぐ音を出せる状態を維持しています。

片付けたほうが見た目は良いのですが、宅録の場合は「片付けた状態」と「録れる状態」がトレードオフになっていることを認めたほうが早いと思っています。毎回きれいに片付けて毎回組み直すより、繋ぎっぱなしで録る回数が増えるほうを取りました。

2. プロジェクト:Logicのテンプレートを用意しておく

新しく録るたびにトラックを一から作ってルーティングを組んでいたら、それだけで数分かかります。なので、よく使う構成(ギタートラック・入力ルーティング・軽くかけておくプラグインなど)をあらかじめLogic Pro側でテンプレートとして保存しておき、新規プロジェクトを開いたらすぐ録音できる状態からスタートするようにしています。曲ごとの個別設定は後から詰めればいいので、まず「録れる状態」を最速で用意することを優先しています。

テンプレートに何を入れておくかは人それぞれですが、「開いた瞬間に赤ボタンを押せる」ことを基準にすると迷いません。最低限このあたりが入っていれば足ります。

  • ギタートラックと、その入力ルーティング(毎回選び直さなくていい状態にしておく)
  • モニタリングの設定(入力音を聴きながら録れるか)
  • クリックとテンポの初期値
  • いつも挿しているプラグイン
  • トラック名と色分け(後から見返すときに効いてきます)

3. 音色:プリセットをすぐ呼び出せるようにしておく

音作りも同様です。録る曲・フレーズに合わせて毎回一からアンプシミュレーターやエフェクトの設定を組んでいると、そこがボトルネックになります。よく使う音色はあらかじめプリセットとして保存しておき、呼び出すだけですぐ録音に入れる状態にしておく。多少そのプリセットが今回の曲に完璧にハマっていなくても、まず近い音で録り始められることのほうが、結果的に続けやすさに直結すると感じています。

ここは「完璧な音を用意してから録る」を捨てられるかどうかだと思っています。近い音で録り始めて、必要なら後から録り直すほうが、音作りで30分溶かして結局録らなかった日より確実に前に進みます。プリセットは完成品ではなく出発点、という扱いにしておくのが自分には合っていました。

この3つを全部やるようになって変わったこと

  • 「ちょっと弾いて録っておこう」を思い立ってからすぐ実行できるようになった
  • 準備の手間が録音を始めるハードルにならなくなった
  • 結果的に、録る頻度そのものが増えた

機材を繋ぎっぱなしにする、テンプレートを用意する、プリセットを呼び出せるようにする——それぞれは地味な工夫ですが、全部やることで「思い立ってから音が出るまで」の時間がほぼゼロになりました。宅録を続けられるかどうかは、突き詰めるとこの起動時間の短さにかかっていると思っています。

機材を増やすより先に、いま持っている機材で起動時間を削るほうが、たいていの場合は効果が大きいです。新しいアンプシミュレーターを買っても、それを立ち上げるまでに10分かかるなら結局使わなくなります。「何で録るか」と同じくらい「どれだけ早く録り始められるか」を気にするようになったのは、この順番に気づいてからでした。