テイクの残し方|完璧な1本より、いいとこ取りで組み合わせる

テイクの残し方|完璧な1本より、いいとこ取りで組み合わせる コラム・雑記

宅録のテイク管理は、意外と自己流になりがちなところだと思います。自分の場合、基本はフレーズ単位で録っていて、曲を最初から最後まで通して録るのは稀です。1テイクで完璧を狙うというより、録りながらテイクをどう扱っていくかのほうが重要だと感じています。

1テイクで決めようとすると、なぜ苦しくなるのか

「今の1本で決めたい」と思いながら弾くと、ミスできない状態で演奏することになります。ところが宅録で難しいのは、その緊張がそのまま演奏に出るところです。走ったり、力んだり、いつもなら弾ける箇所で引っかかったりする。1本に懸けるほど、その1本の精度が下がるという逆転が起きます。

しかも「決め」の1本を狙うと、途中でミスした時点でそのテイクは失敗になります。前半がすごく良くても、後半で1音外したら丸ごと録り直し。何度もそれを繰り返していると、前半の良かった演奏だけが積み上がらずに消えていきます。

複数テイクを残す前提に切り替えると、この構造がひっくり返ります。ミスしてもそのテイクの良かった部分は残るので、1本ごとの緊張が下がり、結果として演奏の精度も上がる。テイクを残すのは編集のためというより、まず弾く側の気持ちを軽くするためだと思っています。

明らかにダメなテイクは消すが、基本は上書きして記録として残す

録音中に明らかな弾き間違いや事故があったテイクはその場で消しますが、それ以外は基本的に上書き録音をしながら、記録として重ねて残していくやり方をとっています。1回で決めにいくのではなく、何本かテイクを録り重ねていく中で、良かった部分を後から選んでいくイメージです。

これはプロも基本的にやっているスタイル

自分が音楽の専門学校にいた頃も、周りはほとんどこのスタイルで録音していました。アーティストの現場でも、1発録りで完パケにするケースはむしろ少数派で、複数テイクを録ってから良い部分を選んでいく、というのが基本的な録り方だと思います。宅録だからといって特別なやり方をしているわけではなく、現場でも普通に行われている方法をそのまま持ち込んでいる形です。

1つのフレーズにつき、だいたい3本くらい録る

本数の目安としては、1つのフレーズにつき3本前後です。同じトラックに重ねて録っていくと、Logic側で自動的に「テイクフォルダ」としてまとめられるので、それをそのまま利用しています。テイクごとに聴き比べたり、後から良い部分だけをつまんで組み合わせたりできるのは、この機能があってこそです。本数を決めすぎず、納得のいくテイクが録れた時点で切り上げることもあれば、3本録っても決め手に欠ける時はもう少し重ねることもあります。

Logicのテイクフォルダ。下に録った3本のテイクが並び、いちばん上に採用部分を繋いだコンプが表示されている
実際のテイクフォルダ。下の3本が録ったテイクで、いちばん上が採用部分を繋いだコンプ。区間ごとに色が変わっているのが、テイクを選び分けた結果。

本数を増やしすぎないのにも理由があります。10本20本と録ると、今度は聴き比べて選ぶ作業のほうが重くなる。3本前後だと、その場の記憶で「2本目が良かった」と判断できるので、選ぶコストがほとんどかかりません。録るより選ぶほうに時間がかかり始めたら、本数が多すぎるサインだと思っています。

前半・後半のいいとこ取りで組み合わせる

自分はあまり頻繁にはやらないのですが、テイクフォルダの中でテイクを組み合わせる時に、前半は良いけど後半でミスがあるテイクと、前半にノイズが入っているけど後半は完璧なテイクを組み合わせて、1本の音源に仕上げるということもあります。テイクフォルダ内でそれぞれのテイクの「良い部分」だけを繋ぎ合わせることで、通しでは録れなかった完成度のテイクを作れるのがこのやり方の利点です。

繋ぎ目は「動いていない場所」か「音が切れている場所」に置く

テイクを組み合わせる時に一番気をつけているのが、編集点をどこに置くかです。フレーズの途中、音が動いている最中で繋いでしまうと、聴いた時にどうしても不自然な段差が出てしまいます。なので、編集点は必ず「フレーズが動いていない場所」か「音が完全に切れているところ」に置くようにしています。ロングトーンを伸ばしている最中や、フレーズとフレーズの間の一瞬の無音・ミュートのタイミングを狙って繋ぐと、聴き直しても継ぎ目にほとんど気づかれません。

2本のテイクを、音が切れている場所で繋いで1本に仕上げる編集点の置き方
音が動いている最中で繋ぐと段差が出る。無音やミュートのタイミングを狙う。

逆に、繋ぎたくなっても避けたほうがいいのは次のような場所です。

  • ピッキングの直前・直後:アタックが二重になったり、逆に削れたりしやすい
  • 音量が変化している最中:クレッシェンドの途中で繋ぐと、音量の段差がそのまま聴こえる
  • ロングトーンでも、揺れているところ:ビブラートやフィードバックが動いている最中は、伸ばしているようでいて実際は変化しているので繋ぎ目が出ます

同じロングトーンでも「揺れていない部分」なら繋げます。伸ばしているかどうかではなく、その瞬間に音が変化しているかどうかで判断するのがコツだと思っています。

繋いだあとに必ず確認すること

編集点を決めて繋いだら、そこだけを短くループさせて聴き直します。通しで聴くと流れで誤魔化されてしまうので、繋ぎ目の前後だけを切り出して確認するほうが粗に気づけます。

そのうえで、最後に一度は通しで聴きます。繋ぎ目単体では自然でも、通して聴くと前後でニュアンスや音量感が違って聞こえることがあるためです。継ぎ目が気になる場合は、編集点をほんの少しずらすだけで解決することが多いです。

この録り方でよかったこと

  • 1テイクに完璧を求めなくていいので、録音そのもののプレッシャーが減る
  • 複数テイクを残しておけば、後からいいとこ取りで組み合わせる選択肢が生まれる
  • 特別なテクニックではなく、現場でも普通に行われているやり方だと分かって気が楽になった

1本で仕留めようとするより、何本か録って後から選ぶ、必要なら組み合わせる。これだけで、宅録に対する気負いがだいぶ減りました。